群の表現のさわり ... フーリエ変換まで
フーリエ変換とは、
\[ \hat{f}(k) = \sum_{x=0}^{n-1} e^{-2 \pi i k x/n} f(x) , k \in {0,1,2,\cdots,n-1} \]
とか、
\[ \hat{f}(k) = \frac{1}{2\pi} \int e^{- i k x} f(x) dx , k \in \mathbb{Z} \]
とかの有名な変換である。解析的には、関数を周期的な $ \sin , \cos $ の三角関数で分解すると一様収束する、などで直感的に理解するのだが、代数的な理解として群の表現という道具立てを使った解釈がある。
そのサワリの部分を調べた。
definition (群の表現)
群を$G$とする。群$G$の表現$(\rho,V)$とは、ベクトル空間$V$上の線形群$GL(V)$に対する対応:$\rho:G \to GL(V) $ で、次を満たす。
$V$を$G$加群と呼ぶ。 ベクトル空間$V$に対し、表現が作用することを$\rho(g) v $とか、$\rho v$と書く。要するに、ベクトル空間$V$に作用する正則な行列で、群の演算と行列の積が自然に対応するもののことである。
たとえば、すべての群の元を単位行列に割り当てると、表現となる。これを自明表現と呼ぶ。
$V$の部分空間$W$で、
\[ w \in W \rightarrow \rho w \in W , \forall w \in W \]
なら、$W$も$G$加群である。この$W$を$V$の部分$G$加群と呼ぶ。(群$G$の部分群ではない。表現として展開された空間側の部分空間である。)
ベクトル空間$V$と$W$で、$V$から$W$への線形変換を
\[ \mu \in \textrm{Hom}(V,W) \]
と書く。$V$と$W$の表現があれば、これも$G$加群として表現とみなせる。$V$が$n$,$W$が$m$次元ベクトル空間とすると、$m \times n$の行列で$V^* \otimes W$と同型である。
具体的にどう表現が記述されるかというと、$( \rho_V,V )$と$( \rho_W,W )$で、
\[ \rho_W(g) \mu \rho_V(g^{-1}) \rightarrow \mu' \in \textrm{Hom}(V,W) \]
と書けばよい。$\rho_V(g^{-1}) = \rho_V(g)^{-1}$で、下記の図の$v$から$w$への線形変換について、ぐるっと$v'$,$w'$を経由する作用となる。
\[ \begin{array}{ccc} v' & \xrightarrow{\mu} & w' \\ {\scriptsize \rho_V(g)} \downarrow \quad & & \quad \downarrow {\scriptsize \rho_W(g)} \\ v & \xrightarrow{\mu'} & w \end{array} \]
なお、$W=\mathbb{C}$である場合、この線形変換は$V$の双対空間$V^* = \textrm{Hom}(V,\mathbb{C})$とみなせて、この場合を特に双対表現と呼ぶ。(*はエルミート共役。エルミート内積を扱いたいのである。)
definition (既約表現、可約表現)
部分$G$加群を自身と{0}以外に持たない表現を既約表現という。(持つものを可約表現という)
definition ($G$線形写像)
$\mu\in \textrm{Hom}(V,W)ですべての $ g \in G $ に対して不変なものを、
\[ \mu\in \textrm{Hom}_G(V,W) \]
と書いて、これを$G$線形写像という。これは、先の図の→矢印$\mu$と$\mu'$が同じ(不変) で$\mu(\rho_V(g)v)=\rho_W(g) \mu(v) \in W $ になるということである。このとき、
である。
群が有限群なら、任意の表現は既約表現の直和で表される。(これを完全可約という)
schr's Lemma
$V$,$W$が既約な$G$加群とすると、$G$線形写像 $\phi \in \textrm{Hom}_G(V,W)$は、以下が成り立つ。
- $\phi $は同型(つまり$V \simeq W$)、または$\phi=0$
- $V \simeq W$ならば、$\phi = \lambda I (\exists \lambda \in \mathbb{C}) $ ($I$は単位行列)
※既約なので部分$G$加群が無く、$\textrm{ker} \phi,\textrm{Im} \phi $が部分$G$加群でない→同型
※固有値$\lambda$を一つ考えて、$\phi -\lambda I$を検討すればよい
完全可約な任意の表現$(\rho,V)$は、既約表現$(\rho_i,V_i)$を使って、
\[ V = \bigoplus V_i^{a_i} , (a_iは多重度) \]
と分解できる。$\rho$のほうはというと、適当な変換行列$P$を使って、
\[ \rho(g) = P^{-1} \begin{pmatrix} \rho_1(g) & & & \\ & \rho_2(g) & & \\ & & \ddots & \\ & & & \rho_i(g) \end{pmatrix} P \]
と、 対角成分にそれぞれの既約表現を多重度を含めて並べたものに変換できる。※既約表現は1次元とは限らず、$V_i$の次元を$n_i$とすると、$V$の次元は $\sum a_i n_i$となる。
definition (指標)
群$G$の表現$(\rho,V)$に対し、指標($\chi_V(g)$とは、
\[ \chi_V(g) = \textrm{tr}(\rho(g)) , ※\textrm{tr}は行列のトレース \]
という、 $\chi$:$G \to \mathbb{C}$の関数である。
行列のトレースの性質 $ \textrm{tr}(AB)=\textrm{tr}(BA)$ より、
\[ \chi_V(hgh^{-1}) = \chi_V(g) \]
が成り立つ。このことから、指標は群$G$の共役類上の類関数である。(共役類で同じ値を持つ)
※行列$A$の固有値が$\lambda_i$なら、$\textrm{tr}(A)=\sum_i(\lambda_i)$
また、関数$\chi$は次を満たす。
- $\chi_{V \oplus W} = \chi_V + \chi_W$
- $\chi_{V \otimes W} = \chi_V \chi_W$
先の完全可約の既約分解から、指標をとると、
\[ \chi_V = \sum_i a_i \chi_{V_i} , (a_iは多重度) \]
と既約表現の指標の和でかける。
definition (自明表現への射影公式)
$G$の表現$(\rho,V)$があったとき、$G$上で$V$への作用を”平均”した射を考える。
\[ \psi = \frac{1}{|G|} \sum_{g \in G} g = \frac{1}{|G|} \sum_{g \in G} \rho(g) \]
これは、次の性質を持つ。
- $V$から、V内のすべての自明表現の和($V^G$と書く)への射影で$G$線形写像である。
- $\textrm{tr}(\psi)$は、自明表現の重複度($V^G$の次元)が得られる。
$V$と$W$を既約$G$加群としたときの線形変換$\textrm{Hom}(V,W)$について考えると、この自明表現は、$G$線形写像$\textrm{Hom}_G(V,W)$に他ならない。この次元=重複度は、schr's lemmaから、
\[ \textrm{dim} \textrm{Hom}_G(V,W) =\left \{ \begin{array}{rl} 1 & if V \simeq W \\ 0 & if V \not\simeq W \end{array} \right. \]
である。
definition ($G$不変エルミート内積)
類関数がなすベクトル空間を$\mathbb{C}_{class}(G)$として、$G$上の$\mathbb{C}$値関数空間の内積を
\[ (\alpha , \beta) = \frac{1}{|G|} \sum_{g \in G} \overline{\alpha(g)} \beta(g) \]
と、$G$の元で平均を取る(つまり$G$不変)ものを定義する。( $\alpha,\beta \in \mathbb{C}_{class}(G)$ )※$\overline{\alpha}$は、エルミート共役
$V$と$W$を既約$G$加群としたときの線形変換$\textrm{Hom}(V,W)$にたいして、自明表現の射影公式を作用して指標をとる。$\textrm{Hom}(V,W)$は$V^* \otimes W$と同型であるから、
\[ \textrm{tr}(\psi) = \frac{1}{|G|} \sum_{g \in G} \chi_{V^* \otimes W}(g) = \frac{1}{|G|} \sum_{g \in G} \chi_{V^*}(g) \chi_{W}(g) = ( \chi_{V} , \chi_{W} ) \]
となって、定義した内積となる。$V$と$W$が既約の場合で、同型なら内積が1,そうでなければ0ということから次がいえる。
指標の正規直交性
有限群$G$の既約表現の指標は、上記内積に関して、直交している。
表現$V$が既約なら、かつそのときに限り、内積$(\chi_V,\chi_V) = 1$となる。
表現$V$で分解される既約表現$V_i$の重複度$a_i$は、次のように、指標の内積で表せられる。
\[ a_i = ( \chi_V, \chi_{V_i} ) \]
また、任意の表現$V$について、次が成り立つ。
\[ ( \chi_V, \chi_V ) = \sum_i a_i^2 , ※a_iは、既約表現の多重度\]
置換表現、正則表現
有限群$G$が、有限集合$X=(x_1,x_2,\dots,x_n)$の置換群として作用するとき、$V=\mathbb{C}e_{x_1} + \mathbb{C}e_{x_2} + \dots + \mathbb{C}e_{x_n}$という、$n$次元のベクトル空間を定義して、
\[ \rho(g): V \to V , \rho(g) e_{x_i} = e_{gx_i} \]
と作用するものを置換表現という。たとえば、対称群$\mathbb{S}_3$に対して、$n=3$の置換表現が作れる。特に、$X=G$として、$n=|G|$としたものを「正則表現」$R_G$と呼ぶ。
正則表現$R_G$の指標は、$G$の単位元とそうでない場合で場合分けできる。
\[ \chi_{R_G}(g) =\left \{ \begin{array}{rl} 0 & if g = e \\ |G| & if g \not= e \end{array} \right. \]
正則表現の既約分解を考える。任意の既約表現$V_i$について指標の内積をとると、
\[ ( \chi_{V_i},\chi_{R_G} ) = \frac{1}{|G|} \chi_{V_i}(e) \chi_{R_G}(e) = \textrm{dim} V_i \]
これは、対象の既約表現の重複度に等しい。
この結果から、
\[ |G| = \textrm{dim}(R_G) = \sum_g \textrm{dim} V_i \chi_{V_i}(e) = \sum_i (\textrm{dim} V_i)^2 \]
また、$\chi_{R_G}(g) =0 , g\not=e $より、
\[ \sum_i ( \textrm{dim} V_i) \chi_{V_i}(g) =0 , if g \not= e \]
が得られる。これらから、後で述べるフーリエ変換の逆変換が成り立つことがわかる。
群環
有限群$G$の群環(group algebra)$\mathbb{C}G$とは、$G$の元を基底とみなした$\mathbb{C}$上のベクトル空間
\[ \sum_{g \in G} a_g g g_g \in \mathbb{C} \]
であり、この積は、基底間の積を群の演算としたものである。
\[ \bigl( \sum_{g \in G} a_g g \bigr) \bigl( \sum_{h \in G} b_h h \bigr) = \sum_{gh} a_g b_h gh gh \in G \]
群上$\mathbb{C}$値関数空間$f(g)$は、上記の係数$a_g=f(g)$と割り当てれば、自然と対応付けられる。このときの関数$f(g)$の積は、
\[ f * f'(g) = \sum_{g \in G} f( g h^{-1} ) f'(h) \]
という、畳み込みになる。$f$は畳み込みで代数になる。これを$(\mathbb{C}(G),*)$と書く。
さらに、$G$の表現$(\rho,V)$があれば、群環から$V$の自己写像への自然な対応(これを群環の表現という) $\rho:\mathbb{C}G \to \textrm{End}(V) $ が得られる。次のように対応付けられる。
\[ \sum_{g \in G} a_g \rho(g) \in \textrm{End}(V) \]
これも要するに、群環の各基底を$G$の表現$rho$に置き換えて行列演算することでえられる。
環同型
以下が成り立つ。
\[ (\mathbb{C}(G),*) \simeq \mathbb{C}G \simeq \bigoplus \textrm{End}(W_i) \]
※G上代数が成り立つ$f$は、既約表現の和空間と同型
※$f$が類関数なら$f(hgh^{-1})=f(g)$で、群環の中心となる。
フーリエ変換とは
フーリエ変換とは、上記の環同型、群上$\mathbb{C}$値関数空間を既約表現の分解に変換したものなのである。
\[ \hat{f}(\rho) = \sum_{g \in G} f(g) \rho(g) , \hat{f}(\rho) \in \textrm{End}(V) \]
群が可換群なら$\hat{f}$は1次元になって、有限のフーリエ変換と一致する。
非可換ならとり得る引数の表現$\rho$による行列が得られて、これは、$V$の自己写像$\textrm{End}(V)$である。
逆変換は、
\[ f(x)=\frac{1}{|G|}\sum_{\rho \in \hat{G}} \textrm{dim} V_\rho \textrm{tr} \bigl( \rho(g^{-1})\hat{f}(\rho) \bigr) \]
とかけるらしい。※$\hat{G}$は$G$の既約表現の同値類全体
連続の場合
これまで、群は暗黙のうちに有限群である想定で書いたが、これを局所コンパクト群の場合でも、ほぼ同じような議論ができるらしい。
definition (局所コンパクト群)
群#G#が局所コンパクト位相空間で、直積位相空間$G \times G$から、$G$への写像、および$G$から$G$への写像
\[ (a,b) \mapsto ab および a \mapsto a^{-1} , a,b, \in G \]
が位相連続であるものをいう。
この場合の群$G$の表現は、対象が有限次元ベクトル空間とは限らなくなる。ので今までの議論がざっくり、こんな感じで変わる。(厳密ではない)
- ベクトル空間$V$ $\rightarrow$ 複素ヒルベルト空間 $\cal{H}$
- 線形群$\rho$ $\rightarrow$ $\cal{H}$上の有界線形作用素 $B(\cal{H}) $
- 群の表現の定義に写像$T:G \to \cal{H}$が強連続、つまり、$ x \mapsto T(x) v ( x \in G , \forall v \in \cal{H} )$が$G$上連続
といった感じ。そうすると、
- 局所コンパクト群の有限次元ユニタリ表現は既約表現の直和に分解される
- コンパクト群の既約ユニタリ表現はすべて有限次元で、任意のユニタリ表現は既約ユニタリ表現の直和に分解される
- 可換群の既約ユニタリ表現はすべて1次元で、指標となる
みたいな結果が得られるとのこと。最後のが積分形式のフーリエ変換に対応する。
参考:
- 本間 泰史 有限群の表現、対称群の表現の基礎
- 橋本 隆司 対称群の表現論 (組合せ論講義ノート)
- 河添 健 「群上の調和解析」